【ご案内】12月17日 日中弁護士シンポジウム2011/12/02 14:59

こんにちは、インターンの湯村です。シンポジウムのご案内です!どうぞお誘いあわせの上、ご参加ください。


平成23年度 日中研究交流支援事業 シンポジウム

「変容する中国の市民社会と弁護士」



2010
年は2つの意味で日中関係の構造的転換点となりました。1つは尖閣諸島沖での衝突事件における日中関係の緊張、もう1つは国内総生産(GDP)での日中逆転です。今後、日中間の経済の相互依存関係は深まり、「日本から中国」が主流だった人・モノ・カネの流れは今後、より「中国から日本」へと移ることが予想されます。しかし、中国の特殊な政治体制は日中間の政治と経済の問題を切り離すことを困難にしており、政治関係が悪化すれば経済関係にも影響を与えるため、両国関係全体を予測不可能なものにしています。

一方、中国国内に目を向けると、貧富の格差や幹部の腐敗、不公正現象のまん延など社会の矛盾は深刻化する中、社会的弱者を支援する人権派弁護士やNGOなどが当局からの強い圧力を受けながらも台頭しています。さらに、共産党・政府はインターネットの管理を強化していますが、研究者や弁護士、ジャーナリストら知識人がネット空間で社会問題について激しい議論を展開しています。

これまでの中国は、共産党・政府が、党機関紙人民日報や国営新華社通信、中央電視台(CCTV)など伝統的メディアを通じて情報を独占し、共産党・政府に連なる「主流」と呼ばれる人たちが大きな発言権を握る社会でした。しかしネット上では「微博」と呼ばれるマイクロブログなどが普及し、中国の民衆は、伝統的メディアよりも先に情報を獲得し、その情報に基づいて行動を起こせるようになりました。つまり中国社会の中で共産党・政府の支配の及びにくい民間の空間が広がり、改革派知識人、人権派弁護士、NGO関係者ら、これまで「非主流」だった人たちも社会的影響力を増しています。

本シンポジウムでは、以上のような状況を踏まえ、特にネット空間で影響力を持つ弁護士及びジャーナリストの4名を迎え、「変容する中国の市民社会と弁護士」というテーマで議論を進めていきます。早稲田大学、ヒューマンライツウォッチ、ALSAAsian Law Students’ Association)の共同企画であり、シンポジウム参加者全員がディスカッションに加わるスタイルで行います。

 

 


日時:
20111217日(土)
場所:早稲田大学早稲田キャンパス11号館711号室
スピーカー:陳有西(中華全国弁護士協会憲法人権委員会副主任)

           佐藤博史(足利事件と横浜事件の各主任弁護人、早稲田大学法  

        科大学院教授)
コメンテーター:李軒(中央財経大学法学院副院長)

               斯偉江(中華全国弁護士協会知識産権委員会副秘書長)

               陳保成(『南方都市報』記者)

               土井香苗(ヒューマンライツウォッチ・東京事務所ディレクター)
司会:阿古智子(早稲田大学国際教養学部准教授)
*日本語―中国語の逐次通訳つき

 

(当日のスケジュール)

1330 受付開始

14001450 陳有西弁護士による基調講演「変容する中国の市民社会と弁護士」

14501540 佐藤博史弁護士による基調講演「日本における刑事訴訟の問題点」

15401620 グループディスカッション

16201640 ティーブレイク

16401700 ディスカッションの内容を発表

17001740 ディスカッションを受けて斯弁護士、李弁護士、陳記者、土井弁護士
                       がコメント

17401800 まとめ


参加希望の方は名前、所属、電話番号を明記の上、chinaforum.10@gmail.comまでご連絡ください。


スピーカー・コメンテーター略歴
陳有西:京衝弁護士集団社長、中華全国弁護士協会憲法人権委員会副主任、知識財産権委員会委員など多数の委員を務めるほか、中国人民大学、上海交通大学などで兼任教授を担当。ブログなどにおける司法改革や刑事訴訟法の改正(注1)に関する発言が注目されている。重慶の李庄事件(注2)で筆頭弁護人を担当。


佐藤博史:足利事件の控訴審以降,横浜事件の第4次再審で,それぞれ主任弁護人を務めた。主な著書に「刑事弁護の技術と論理-刑事弁護の心・技・体」(有斐閣、2007年)、「目で見る刑事訴訟法」(第2版)(共著、有斐閣、2007年)、「訊問の罠-足利事件の真実」(角川oneテーマ212009年、菅家利和氏と共著)、「横浜事件・再審裁判とは何だったのか・権力犯罪・虚構の解明に挑んだ24年」(高文研,2011年)。


斯偉江:
1992年華東政法大学法律学部卒業。上海大邦弁護士事務所パートナー。専門は知識財産権。全国弁護士協会知識産権委員会副秘書長及び執行委員、上海市弁護士協会業務研究・職業訓練委員会副主任、『上海弁護士』雑誌編集委員のほか、華東政法大学や同済大学で兼任講師を務める。上海の大火事被害者や重慶の李庄事件の弁護を担当。


李軒:
19683月生まれ。北京大学法学部修士課程卒業。現在、中央財経大学法学院副院長・准教授、法律修士教育センター主任、全国弁護士協会憲法と人権委員会秘書長、中国民主同盟中央社会法制委員会委員、北京市法制委員会副主任。会社法、訴訟法、仲裁法などを専門とするが、公益訴訟分野においても広く影響力をもつ。主な著書に『中国弁護士の運命』(改革出版社、1997年)。


陳保成:『南方都市報』記者。
19805月生まれ。『済南日報』や『新京報』に勤務後、『成都商報』北京駐在所及び『南方都市報』北京新聞センターに勤務。主に政治や法治に関心をもち、政府の情報公開、土地・建物の立ち退き問題、高級官僚の職務変動などに関する報道を行っている。


土井香苗:ヒューマンライツウォッチ東京ディレクター。難民の人権保護活動などを中心に活躍。朝日ニューススター「ニュースの深層」キャスターや朝日新聞紙面審議委員も務める。


阿古智子:早稲田大学国際教養学部准教授。
現代中国の政治・社会変動を研究。主な著書に『貧者を喰らう国:中国格差社会からの警告』(新潮社、2009年)

 

注1:李庄事件

現在重慶市が進めている「打黒」(黒社会(暴力団)一斉摘発キャンペーン)では既に1500人以上が逮捕されているが、被告の1人である龔剛模の弁護を担当した弁護士の李庄が証拠偽造および証拠収集妨害を理由に起訴された。この李庄の裁判を含め、「打黒」全般において、法に基づく適正手続きが欠如しているとの声が法学者の間で上がり、さまざまなメディアにおいて活発に議論が展開された。李庄は第二審の後、自白を強要されたことを告白したが、有罪判決を受け、さらに、20116月の刑期満了まで数ヶ月という時に、2008年に上海で担当した訴訟における証拠偽造を理由に再び起訴された。これに対し、著名な法学者やメディア関係者が立ち上がって反対の声を上げた結果、重慶市検察当局は李庄の起訴を突如撤回した。

 

注2:刑事訴訟法の改正

現在、全国人民代表大会(議会)常務委員会が刑事訴訟法の改正案を審議しているが、そのなかには、取り調べの可視化(録音・録画の許可)や弁護士の役割強化(監視無しの接見と捜査期間中の法律支援の提供を承認)が盛り込まれている。しかし、同時に「国家安全に危害を加える犯罪、テロ犯罪、重大汚職犯罪と住居では捜査の妨げとなる場合、上級の検察と公安の許可を得て指定の場所で監視できる」という「居住監視」をめぐる条項が盛り込まれ、その上、「捜査の妨げとなるとみなされる場合は、監視対象者の家族への通知を行わなくてよい」と解釈できる規定もあり、多くの法学者が反対の意を唱えている。