イラク:米国との戦争だけではない、犠牲者たちの姿2010/01/25 16:25

イラク、ニネベ。

 世界史を勉強した人は、もしかしたら聞いたことがあるかもしれません。古代大帝国の首都として栄えたこの地域ですが、
現在は、アラブ人中心のイラク中央政府と、クルド自治政府による領土争いの前線地でもあります。

今回、こ
の地域の宗教的少数者であるキリスト教徒のコミュニティーを、ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東・北アフリカ局調査員、サメール・ムスカティが繰り返し訪れ調査しました。宗教弾圧に苦しむ人びとのすがたをご覧ください。


キリスト教徒を標的にした組織的暴力で、夫をなくしたシハーム・アルムッドと彼女の義理の娘。キリスト教徒40人が殺され、1万2000人が故郷を追われました。シハームが夫の生きた姿を最後に見たのは8月28日。その3日後に、彼はごみの山から死体となって発見されました。頭と首には四つの銃痕。そのわずか5日後、今度は息子が、自転車修理店で襲撃されて殺害されました。

 

自転車修理店で殺された夫の写真をかかげる妻。

 

「クルド植民地化」に反対したとして、クルド当局により5ヶ月に渡り拘禁、拷問されたカリール・ラシュ・エリアスとワジード・メンド・ハムー。イラクのクルド自治政府は、クルドのアイデンティティーの押し付けに抵抗するこの地域の人々を、ことあるごとに不当に扱ってきました。

 

昨年、モスール地区で起きた、キリスト教徒に対する大規模な暴力事件で殺された兄弟と甥の写真を掲げる被害者の家族。200810月7日、AK47(カラシニコフ)機関銃で武装した男たちが、建築業者のアムジャッド・ハディ・ペトロウスに近づき、「キリスト教徒か」と尋ねた。「そうだ」と答えたとたん、彼は男たちに殺されたのです。この時、20歳になる息子ウサムも首とほおを撃たれて重傷を負い、後に死亡しました。

シャバック人のエミール・ガジィ・カリールによると、クルド人ゲリラ組織ペシマーガの男たちが、アル・カズナにある家族経営の農場で、二人の兄弟を殺害、母親に傷を負わせたとのことです。

殺害現場となった農場のあるエリア。2009811日午前5時ごろ、クルド人ゲリラ組織ペシマーガの支配地域であるアル・カズナで、トラック2台に満載された爆弾がいっせいに爆発。爆風で村は破壊され、65世帯がベッドの残骸や血のついた枕と共に瓦礫と化したのです。この時、住民の多くは夏の暑さを避けるため、屋上で寝ていました。最終的な死亡者数は、少なくとも35人にのぼり、200人がけがを負いました。
イラクといえば、アメリカとの戦争以外注目されません。しかし、こうした人権侵害があることもしっていただければ幸いです。