ウェブロンザ掲載:深刻化する中東の人権侵害(上) ― 2011/05/31 16:07
(2011/05/13) 土井香苗著
4月29日(金)、国連の人権理事会(在ジュネーブ)で、日本を含む16カ国の呼びかけにより、シリアの人権状況に関する「特別会期」が開催された。この特別会期では、圧倒的多数によりシリア政府を非難する決議が採択され、平和的なデモに対する政府の暴力を非難するとともに殺人などの人権侵害に対する国連人権高等弁務官による迅速な調査を求めた。国連人権理事会での特別会期の開催には、47カ国からなる理事国のうち1/3以上の求めが必要とされており、日本が、米国や韓国、メキシコ、セネガル、ザンビアなどの他の15理事国とともに、この特別会期の開催を呼びかける動きに加わったことは評価できる。
シリアでは、3月半ばから政府に対する抗議デモが始まった。これに対し、治安・諜報機関が全国で、殺害、恣意的な逮捕・拘禁、拷問や虐待で応えており、地元の人権団体によると、4月末時点までに、デモ参加者や通行人など約450名が殺害されている。
悪名高いシリアの秘密警察「ムハバラート」は、抗議デモに支持を表明した弁護士や活動家、ジャーナリストなども拘束している。アサド大統領は1963年以来発令されたままの緊急事態令(治安機関による令状なしの拘束や、外部から隔絶した長期拘禁など、市民の自由を制限してきた)を撤廃する大統領令を発令したものの、その翌日の4月22日(金)には、シリア全土14都市で行われた抗議デモに軍が実弾を発砲するなどし、少なくとも76名が殺害(少なくとも112名以上の可能性もある)される事態となった。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ホムス、ドウマ、 エザラ(Ezraa)、マダミヤ(Maadamiya)でのデモ参加者などから聞き取り調査を続けてきているが、その結果、概ね平和的に行われた抗議デモに対し、政府治安部隊などが警告なしに実弾発射を行っている実態が明らかになっている。ホムスのアルバール(Al-Barr)病院の医師は、4月22日、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、「病院に5つある手術室はもう満杯です。ほとんどの患者は胸に銃弾を受けています。全部実弾です。ゴム弾じゃないんです。多くの市民が病院を取り囲んで、患者たちが治安部隊に連行されるのを阻止しています。他の都市では、治安部隊が病院から患者を連行しているというニュースがありますので」と語った。
しかも、多数のデモ参加者が劣悪な環境の過密な施設に拘束され、電気ショックやムチによる殴打などの激しい拷問を受け、自白調書への署名を強制されている実態も明らかになっている。
1970年代から大統領職にあった父のあとをついで2000年にシリア大統領となったバッシャール・アサド大統領は、当初は改革者を目指していた。2000年7月17日の就任演説では、「創造的思考」「透明性」「民主主義」の必要性について言明。「社会の自由や人権状況の改善」を約束していた。
しかし、堅固な守旧勢力に改革を妨害されたのか、あるいはただ独裁的指導者になりさがったのか、アサド大統領が権力の座についてほどなくして「寛容」の理想は忘れ去られ、シリアの刑務所は政治犯やジャーナリストや人権活動家で一杯になった。シリア国民の期待は打ち砕かれた。
続きは、ウェブロンザのURLへ!
http://astand.asahi.com/magazine/wrpolitics/2011051200018.html
4月29日(金)、国連の人権理事会(在ジュネーブ)で、日本を含む16カ国の呼びかけにより、シリアの人権状況に関する「特別会期」が開催された。この特別会期では、圧倒的多数によりシリア政府を非難する決議が採択され、平和的なデモに対する政府の暴力を非難するとともに殺人などの人権侵害に対する国連人権高等弁務官による迅速な調査を求めた。国連人権理事会での特別会期の開催には、47カ国からなる理事国のうち1/3以上の求めが必要とされており、日本が、米国や韓国、メキシコ、セネガル、ザンビアなどの他の15理事国とともに、この特別会期の開催を呼びかける動きに加わったことは評価できる。
シリアでは、3月半ばから政府に対する抗議デモが始まった。これに対し、治安・諜報機関が全国で、殺害、恣意的な逮捕・拘禁、拷問や虐待で応えており、地元の人権団体によると、4月末時点までに、デモ参加者や通行人など約450名が殺害されている。
悪名高いシリアの秘密警察「ムハバラート」は、抗議デモに支持を表明した弁護士や活動家、ジャーナリストなども拘束している。アサド大統領は1963年以来発令されたままの緊急事態令(治安機関による令状なしの拘束や、外部から隔絶した長期拘禁など、市民の自由を制限してきた)を撤廃する大統領令を発令したものの、その翌日の4月22日(金)には、シリア全土14都市で行われた抗議デモに軍が実弾を発砲するなどし、少なくとも76名が殺害(少なくとも112名以上の可能性もある)される事態となった。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ホムス、ドウマ、 エザラ(Ezraa)、マダミヤ(Maadamiya)でのデモ参加者などから聞き取り調査を続けてきているが、その結果、概ね平和的に行われた抗議デモに対し、政府治安部隊などが警告なしに実弾発射を行っている実態が明らかになっている。ホムスのアルバール(Al-Barr)病院の医師は、4月22日、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、「病院に5つある手術室はもう満杯です。ほとんどの患者は胸に銃弾を受けています。全部実弾です。ゴム弾じゃないんです。多くの市民が病院を取り囲んで、患者たちが治安部隊に連行されるのを阻止しています。他の都市では、治安部隊が病院から患者を連行しているというニュースがありますので」と語った。
しかも、多数のデモ参加者が劣悪な環境の過密な施設に拘束され、電気ショックやムチによる殴打などの激しい拷問を受け、自白調書への署名を強制されている実態も明らかになっている。
1970年代から大統領職にあった父のあとをついで2000年にシリア大統領となったバッシャール・アサド大統領は、当初は改革者を目指していた。2000年7月17日の就任演説では、「創造的思考」「透明性」「民主主義」の必要性について言明。「社会の自由や人権状況の改善」を約束していた。
しかし、堅固な守旧勢力に改革を妨害されたのか、あるいはただ独裁的指導者になりさがったのか、アサド大統領が権力の座についてほどなくして「寛容」の理想は忘れ去られ、シリアの刑務所は政治犯やジャーナリストや人権活動家で一杯になった。シリア国民の期待は打ち砕かれた。
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